終止符
このまま関係を続けてもいいことは無い。
それは分かっていた。
本日4月13日、5日間ほど外泊していた彼女が、話があるから家に帰ると言ってきた。
帰ってきた彼女は髪を切って、見知った服装で玄関を開けて入ってきた。
「髪、切ったね」
「うん」
「...、それで話って?」
話は私から切り出した
「家の名義の話なんだけど、多分○○君の名義に変える時に再審査があるから、多分落ちちゃうよ」
私が思っていた通り、どちらが家に残るかの話だ。
再審査に落ちるというのは、現在私が無職だからということだ。まぁ私が無職になった理由もほとんど相手が悪いのだが、ここでは触れないでおく。
「確かに、それならお前が残った方がいいな」
「私の入院中の家賃は払ってよ」
と2ヶ月滞納分の請求書を渡してきた。
「いやお前が入ってたの1ヶ月だろ、1ヶ月分のなら出してやるよ」
「分かったじゃあそれでいい」
「...、別れるって事でいいんだな」
「うん」
「そうか...」
私は言葉に詰まる。再び会うまでは、当然私も別れる気でいたのだが、こうも冷静に、というか正直温かい対応(勝手に感じただけ)をされると、やっぱり情が邪魔をする。
固まっている私に対して、
「じゃあ、またね」
といいながら、玄関に向かう彼女を、あろう事か私は引き止めてしまった。
「少し、話さないか」
分からない。別れたくないと言うつもりも無ければ、未練がある訳でも無いと思っていた。
「うん、いいよ」
意外にも承諾してくれた彼女は、リビングで机越しに向かい合った。
「そういえば、荷物はどこに置いてきたんだ?」
「Fちゃんの家(女友達)」
少し世間話というか、他愛もない話をした。内容はあまり覚えていない。とんでもなく時間が早く感じた。
4月中に私が家から出ていくということで話がまとまった事は覚えている。
彼女は女友達の家に居る、と言っていたが、今までの彼女の行いを考えたら、正直嘘な気がしている。証拠は何も無いが男の家に外泊しているような気もする。それほどまでに実はクソ女だった。僕のことを知っている人にはわかるはずだ。だがその嘘をつきとめたところで咎める理由も無いため、深くは詮索しなかった。
そんなクソ女である彼女を前にして、彼女を彼女として引き止める事も考えたが、それをこれ以上やると大切な何か、それこそ友人や親を失いそうな気がした。色々な事をされてきた上でそう思ってしまうほど、私は彼女にゾッコンしていたのだろう。そうして私はまた固まった。
話が滞ったところで、彼女が口を開く
「何かまだ話したいことある?」
「...ない。」
苦虫を噛み潰したような顔で私がそう答える。
「そう、じゃあ帰るね」
「あぁ、気をつけて。お互い頑張ろうな」
「うん」
再び玄関に歩き出す彼女
またしても私はそれに対して待ったをかけた。
私は彼女の袖を掴んで振り向かせ、ハグをした。
今度は永遠かのように長く感じた。
その長いハグを終え、
『これで最後だ』
と、心の中で呟きながら、接吻をし、笑いかけた。
彼女も微笑み返してくれた。
「それじゃあ、頑張れよ」
「○○君もね」
お互い手を振った後、彼女が玄関の扉を閉めた。
私達の7ヶ月にトドメを刺したその音は、酷く冷たく聞こえた。